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サンウルブズ、スーパーラグビー脱退前ラストシーズン

サンウルブズのスーパーラグビー最後のシーズンが始まった。

2016年、日本から初めてスーパーラグビーに参戦したサンウルブズ。その最大の目的は2019年の日本開催W杯に向けて日本代表チーム強化だった。初の決勝トーナメント進出を果たしたW杯の結果を見れば、その目的は達成されたと言っても良いのだろう。サンウルブズができる前からスーパーラグビーに参加していたリーチ、堀江、田中、松島などは別にしても、稲垣、具、姫野、流、田村、山中、福岡などW杯で主力を張った選手の多くはサンウルブズに所属することでインターナショナルレベルの経験を積めたことは間違いない。その意味でサンウルブズというプロジェクトは成功し、役目を終えて、今年でスーパーラグビーの舞台から去るということもできるのだろう。

W杯成功の後、ラグビー文化を日本に根付かせる

しかし当然、日本ラグビーが2019年で終わるわけではない。W杯後ラグビー文化を日本に根付かせるために、このブームを一時のもので終わらせないことが大事だと、多くの人が口にしている。2020年、トップリーグはソールドアウトチケットも出ているなど順調な滑り出しを見せている。代表もイングランド、スコットランド、アイルランド、ニュージーランドなどとビッグマッチの予定を多く組んでいる。一見、ラグビー文化を根付かせるその萌芽はできているように見える。けれども代表戦はあくまで年に数回のお祭りで日常に根付くものではない。年に数度のハレの日の文化にはなるかもしれない。けれども文化として根付くということは普段の生活の中にラグビーがある、そういう状態を根付くと言うのではないだろうか。その意味でトップリーグは秋~冬のシーズン中、毎週試合があり日常に根付く可能性はある。トップリーグからラグビーを文化にしていくためにとにもかくにも各チームがどれだけ熱狂的なファンを集められるか、まずはそれが必要だろう。

しかしそのためにはいくつかのハードルがあるように見える。まず一つ目は各チーム名は「企業名」入りで、「地域名」は入っていないこと。良くも悪くもスポーツとナショナリズム・ローカリティは切っても切れない関係がある。そのチームが土地と強い関係を持っているかどうかは、チームのファンになるかどうかの大きな要因になるだろう。現状地域との繋がりが弱いトップリーグのチームがどれだけファンを集められるか、そこは一つのハードルになる。

もう一つのハードルは、そもそもトップリーグの形式自体が来年大きく変わることだ。2019年清宮克幸氏が副会長になるなど新しい体制となった日本ラグビー協会は、2021年からの新しいプロリーグ構想を打ち出している。新しいプロリーグにはトップリーグからいくつかのチームが参戦すると見られているが、参戦しないチームも多い。今年からトップリーグを応援するようになったファンは、来年以降どうなるかわからないリーグ・チームを見させられているのである。そもそもルールがわかりづらいと言われていたラグビー、リーグの方式もよくわからないのでは、応援するモチベーションを維持しづらいのではないだろうか。(ちなみに来年新たにできるプロリーグは地域名を入れることになるようなのでその点は楽しみである。)(なお、今年のトップリーグ自体もW杯の影響で超短期日程のイレギュラーな開催となっていて、今年限定の方式で開催されている。)

以上のようにトップリーグ(または来年始まるプロリーグ)は、W杯後に増えた新たな観客が長期的なファンになるにあたっていくつかの問題を抱えている。新しいファンがこの先の見えない過渡期に付き合って、来年以降もリーグを応援してくれるかどうか綱渡りのリーグ運営が求められているようにも見える。

サンウルブズのスーパーラグビー脱退の経緯と、創設からの歩み

ここで本題のサンウルブズの話に戻りたい。日本代表強化のためスーパーラグビーに参加し、その役目を終えて今年でスーパーラグビーを脱退するサンウルブズではあるが、当初から、5年間限定のチームだったわけではない。当然参入するからにはW杯後も継続的に参加していくものとして考えられていた。それが昨年2019年3月、チーム戦績の不振などを理由に、スーパーラグビーを運営するSANZAARからサンウルブズのリーグ除外が発表された。元々チーム数の削減が進んでいて、いつサンウルブズにその矛先が向かうかという不安はあったので、寝耳に水とまでは言わないが、スーパーラグビー脱退の報はファンに大きなショックを与えた。

リーグ除外の経緯について、まとまった資料がないので正確にはわからないが、いくつかの報道を見た限り、「スーパーラグビーから日本ラグビー協会にスポンサー獲得協力の要請があったが協会は非協力的だった」そこで業を煮やしたスーパーラグビーは「サンウルブズが2021年以降継続参加するなら毎年10億円の拠出金を求めた」日本協会・サンウルブズ側はそれを受け入れることができなかったため脱退が決まった。というのが大まかな流れのようである。(脱退の経緯を含むサンウルブズの歴史についてはチームの元CEOの著書があるが、肝心なとこは書かれていない、見方が一方的な点があり、参考にはなるがこれを読んでもよくわからない点は多く残る。 https://www.amazon.co.jp/%E6%BF%80%E5%8B%95%E3%81%99%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A8%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC-%E4%B8%8A%E9%87%8E-%E8%A3%95%E4%B8%80/dp/4777823245

そんな経緯で2020年でスーパーラグビーからの脱退(事実上のチーム消滅)となったサンウルブズであるが、本当にそれで良かったのだろうか。毎年1勝~3勝程度しかできないサンウルブズではあったが、ラグビー界の小国である日本のチームが、ティア1と言われる強国のチームに戦いを挑む姿は、観客を魅了し多くのファンを獲得した。日本代表強化のために設立されたサンウルブズではあるが、代表強化とは全く別の価値として秩父宮に集まる新たなファンや新たな文化を生み出しつつあったのではなないか。それまでの日本ラグビーで観客を集める大会といえば日本代表と大学ラグビーが大きな存在だった。その試合会場の雰囲気と言えば、オールドファン・玄人筋が多く集まる日本代表、そこに各校OB・OGが加わる大学ラグビーと、あくまでは印象ではあるがどちらも観客の多くは年配・男性に偏っていたように思う。そんな中始まったサンウルブズは毎試合満員とは言わないまでも多くの観客を集め、しかもその顔ぶれは家族連れやカップルを多く含んでいたのである。2017年には、横浜ベイスターズを再建した実績のある池田純氏がサンウルブズ理事に就任した。ベイスターズの球場をボールパークとして作り上げた手腕もあったのだろう、サンウルブズの試合会場でも試合以外に楽しめるコンテンツや子どもが退屈しない仕掛けなど、これまでのラグビーにはないエンターテイメント要素溢れるスタジアムが演出されていた。僕自身も試合の日は早く行って会場内を散歩したり、子どもを連れて観戦したりと随分楽しませてもらった。しかし、池田純氏は翌2018年には理事の職を降り、その理由として日本ラグビー協会の変革への消極的な姿勢をあげるなど、2018シーズンの終わることにはサンウルブズの行く末には徐々に暗雲が見え始めていたように思う。

サンウルブズの試合前、トップリーグの選手が子どもにラグビー体験をさせてくれる催し
試合会場に設置された子どもが入って遊べるマスコットのバルーン

そしてW杯イヤーの2019年、日本代表強化は新たな局面を迎える。このシーズン代表候補の多くはサンウルブズにはほとんど参加せずウルフパックと名付けられた別所帯として合宿・練習試合を重ねることになった。対してサンウルブズは「代表候補のその候補にあたるメンバー」「各地から集められた外国人選手」で編成される、という体制が組まれたのである。サンウルブズはこの年ついにスーパーラグビーで勝つためのチームでも、代表候補が集まるチームでもなく、日本代表候補を育てるためだけの存在となってしまった。

サンウルブズファンのほとんどは日本代表のファンでもあり、その意味で2019年に限って言えば代表強化に徹したとしてもある程度納得できる部分はあっただろう。しかしその翌年2020年、ラストシーズンのチームはさらにひどいことになっている。W杯の影響で開催日程がずれたトップリーグと時期が重なってしまったため、トップリーグ各チームは選手のサンウルブズ招集を拒否、集まった選手は無所属だった選手や大学生などが多く、あまり言いたくはないが寄せ集めのチームになってしまったように思う。さらにファンとして強く感じることは2015~2019のサンウルブズとはチームの顔ぶれが全く変わってしまったことに対する戸惑いだ。元々シーズンごとに選手の入れ替わりは多かったが、ここにきて本当に別のチームになってしまったかのようだ。どんなスポーツでも選手の入れ替わりはあり、10年ファンをやっているうちに選手が全く変わっていたということはあるだろう。けれども去年と今年でコーチ陣含めほとんど入れ替わってしまったら、いったい自分は何を応援しているのかわからなくなってしまう。スポーツチームを応援するってなんだろうという大きな疑問すら浮かぶ状況である。シーズン開始前徐々に発表される2020年のチーム編成を見る中で、正直今年はもうサンウルブズを観るのはやめようという気持ちが大きくなっていた。

2020シーズンのサンウルブズをどういうスタンスで観るか

個人的な思い入れを少し記すとすれば、サンウルブズができて4シーズン、J SPORTSでほぼ全ての試合の中継を見てきた。2016、2017、2018は全試合見たと思う。秩父宮でやる試合も予定が合うかぎり足を運んだ。2019シーズンはファンクラブにも入会した。これまで一つのスポーツチームをこんなにちゃんと見たことはなかった。滅多に勝てないチームだからこそ、そのチームが勝った時の喜びは大きかった。チームにも選手にも愛着を持てた。チーム運営に対する不満を漏らすといういかにもスポーツファンっぽいことも経験できた。まさかチームが無くなるショックまで味わわせてもらえるとは思わなかったけど、何にしても4年間本当に色々と楽しませてもらったと思う。

試合後のファンサービスをする選手たち(2020シーズン2月段階では感染症対策のためファンサービスは自粛されている)

サンウルブズは一体どうしてこんなことになってしまったのだろうか。ファンとしての贔屓目はあるがW杯後に必要とされた「ラグビーが文化として根付く」一番の萌芽はサンウルブズにあったと思っている。世界の大舞台に挑む日本のチームとしてみんなが無条件に応援できるチームであり、試合会場は観戦初心者でも楽しめる工夫が凝らされ、何よりそのファンは今までの日本のラグビー会場には目立たなかった層が多く集まっていた。そこには新しい文化が生まれつつあったのではないだろうか。これはサンウルブズの試合に足を運んでいた多くのファンが頷いてくれることだと思う。

日本ラグビー協会はサンウルブズの試合が行われるスタジアムを見て、何を考えていたのだろう。これを残すことに価値を感じなかったのだろうか。

2019年のW杯は確かに大成功に終わった。けれどもそれ以外のこと、トップリーグに変わる新リーグ開幕がW杯後1年経過してからという空白を生んだことや、W杯後一番自然に盛り上がりを継続できたであろうサンウルブズがこのタイミングで消滅すること、一つ一つがどこかその場しのぎの動きで長期的な視点が欠けているように思えてしまうのである。

2020年、サンウルブズに集まった選手たちは、今年でなくなることが決まっているチームに新たに加入するという状況でモチベーションの維持も難しいだろうと思う。個々には活躍して来シーズンもっと良いチームでプレーしたいなどのモチベーションはあるだろうし、大学生の斎藤や中野にとっては思いがけず巡ってきた舞台は確実に未来に繋がるだろう。けれども、チームとしてはやはり何を目標に戦っていくのか、ディシプリンを探すのが難しいというのが正直なところなのではないかと思う。

2020シーズン、サンウルブズは開幕節で勝利という思いもかけない好スタートを切った。録画で観たその試合で大学生の斎藤と中野が躍動していた。途中出場からすぐにトライのアシストをした中野、初出場で初トライを決めた中野。そしてその結果としての勝利。応援するモチベーションが下がっていた僕も改めて、ラストシーズンも観なきゃいけないなという気持ちにさせられた。その後2試合は負けているが兎にも角にもラストシーズン、どんなプレーを見せてくれるのか、もう少しだけ観続けようと思っている。

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