大阪万博・大屋根リング

2025年6月18日

先日、大阪出張のついでに万博に行ってきた。

時間があまりなかったのと、うまく予約が取れなかったのでパビリオンの中にはほとんど入れなかったのだけれど、一番見てみたかった大屋根リングを見てその上を歩き、また各パビリオンの建築を見るだけでもそれなりに楽しく過ごせた。

最近ではこの手のナショナルイベントは東京オリンピックを始め、常に批判と炎上に晒されることが当たり前になっている。その例に漏れず万博も方々から批判されながらの開催となった。跡地がカジノになること、大屋根リングの建設に多額が使われていること、万博ではなく能登の被災地に税金を使うべき、そもそも維新の会が嫌い……等々。僕自身も諸手をあげて賛成だったわけでもないが、実際に大阪に足を運び盛り上がる現地を見たら、開催した意味はゼロではなかったのかなと感じた。

会場を訪れてみて、一番印象に残ったのは大屋根リングだった。前述の通り建設費の高騰が問題となっていて、その金額の妥当性は僕には判断できないが、一旦それは脇に置いたうえで、大屋根リング自体はなかなかに魅力的な建築物だったように思う。木でできたその躯体はある種の迫力があった。その魅力はどこから来るのだろうか考えながら会場を歩いている中で、僕の中で一つの理由に思い至った。それは「機能と構造と意匠的魅力が一体となっている」ことである。

大屋根リングの機能は「その円形によって会場をゆるやかにまとめること」「会場内を歩きながら一望できること」「大屋根の下に日陰をつくり憩いのスペースを設けること」が挙げられるだろう。その機能を満たすため、組み上げた木材がゆるやかに内と外を分ける壁となり、高所に円形の道を設ける構造となっている。そしてこの建築物の意匠的魅力は組み上げた木の中の空間と、その巨大な円形にある。大屋根の下に入ると無数の木材が入り組んでいてそれがそのまま空間の魅力になっている。またリングの上を歩くとき円形であることで緩いカーブの向こう側に道は続き、それもまたこの建築を歩くときに得られるエモーショナルな経験に繋がっている。

  • ・機能:会場を緩やかにまとめつつ一望でき、日陰の憩いの空間を作ること
  • ・構造:木材で組まれた、通り抜け可能な壁によって作られた高所の道
  • ・意匠:組み上げられた木材、円形の道の、意匠的魅力

機能と構造と意匠の必然性を持って一致している。そのことがデザイン的強度につながっているのだ。そして、皮肉にも、そのほかのパビリオンの建築において、意匠と機能と構造が分離していることが、大屋根リングのデザイン的強度を際立たせている。

各国のパビリオンもまたそれぞれ工夫が凝らさされた建築だったことは間違いない。

このように各国とも凝った意匠が施され、見ているだけで退屈しない。しかし、よくよく見るとこれらの建築の外観はあくまで飾りだということが見えてくる。たとえば上記の写真の奥の建物は外観にロープが垂らされていることで独特の雰囲気が感じられるのだが、近くで見るとロープはあくまで飾りであり、その奥には普通の壁があるだけなのだ。多くのパビリオンが同様に、まず普通の壁で覆われた躯体があり、その外側に意匠のための素材が貼り付けられているという構造となっていた。つまりファサードのための意匠と、建物を成立させるための構造体はあくまで別々になっているのである。

そして、意匠と構造と機能が分離した各国のパビリオンを抜けてたどり着く大屋根リングだけが「機能と構造と意匠的魅力が一体となっている」のである。いやでもその魅力を感じてしまうような会場構成となっている。どこまで計算されているのかはわからないが、ファサードのためだけの意匠が施された各国パビリオンは、まるで大屋根リングを引き立てるためにあるかと錯覚させられてしまう。

少し話は変わるが、今回大阪に行く際に鞄に入れていた『住宅論』(篠原一男、鹿島出版会・SD選書)。そこに収録された『三つの原空間』というテキストがある。ここでは建築における空間を機能空間・装飾空間・象徴空間という三つに分けて論じられている。建築とはとどのつまりこの三つの空間によって構成されるというのが著者の主張である。

先ほど僕は大屋根リングの魅力は「機能・構造・装飾の一致」だと書いたが、ここにもう一つ「象徴」という言葉が登場して、はたと思った。そう、大屋根リングは「機能・構造・装飾の一致」した上でそれが「大阪万博の象徴」として建てられているのだ。何かしら象徴的なデザインというものは強度が高くなるものである。実際に彼のプレゼンテーションを動画で見たりもしたのだが、抽象的な理念の話が多く、デザイン的意図までは語られていなかったため、どこまでが意図したものかはわからない。しかし実際に現場を訪れた感想として、大屋根リングの存在が強く印象に残る万博だった。

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