良いアウトプットを生み出すこと、社会への影響

2021年2月6日

以下、特に結論はないとりとめないテキストです。

デザイン科に通っていた学生時代、プロとして働いているデザイナーたちに抱いていたデザイナー像というものがあった。それは一言で言えば「社会を変えるために、制作物のクオリティを追求する人」である。(実際に社会に出てみてそういうデザイナーはそんなに多くはないと思ったのだが。)そんな視点で見てみるとデザイナーには色々なタイプがいる。「単に仕事だからお金稼ぐためにデザインしてる人」「自分のことばかり考えてデザインしてる人」「業界内でどう見られるかばかり考えている人」「クオリティを追求していてもその先に社会を見渡す視点がない人」などなど、僕が考えるデザイナー像からは遠い人も多い。もちろん、そうではない人とも出会う。「手の届く範囲だけだとしても、デザインで心地よい環境を作ろうとしてる人」「デザインを使って世の中に良い効果を起こそうとしている人」「クライアントのやろうとしていることに正しく共感して自分ごととしてデザインに取り組む人」など、社会に視野を開いた、個人的にも共感できるデザインを行なっている人もいて、身の周りの友人・知人にも何人かそういう人たちがいる。

そういう人たちとはぜひ一緒に仕事をしたいなと思い、実際にご一緒できたりできなかったりしている。

昨今デザインとビジネスを過剰に結びつける言説も多く目にするが、社会に視野を開くこととビジネスを考えることは全く別のものだと思っている。僕が違和感を感じるのはデザインについてビジネスを加速するものとしてしか捉えていないような言説だ。ビジネスもデザインも社会を動かすためのツールで、そのツールを使って何を成し遂げるかが大切なのであって、ツールとツールだけが組み合わさって動くことは、むしろ危険なことなのではないだろうか? そのツールでどんな社会を構想するかが大事なわけで、ツールの有用性を競っているだけでは結果として社会を壊してしまう可能性だってある。だから、デザインというツールを扱うデザイナーはビジネスに対してのみ向き合うよりも、むしろビジネスの視点とは違ったオルタナティブな考え方を示すことの方が重要なのだと思う。それは言い換えれば「デザイナーが職業倫理を持つべき」とも言えるのかもしれない。かつてドイツで社会運動と不可分な形だったデザインは生活を作るものであり、デザイナーはそのための思想を表明してもいた。間違っても大量生産を手放しに賞賛するものだけがデザインではなかったのである。そんなデザインの歴史に対して、現代はあまりにもデザインが社会的な視点を失っているように見えるのだ。

別の観点から考えてみる。デザイナーの仕事の範囲について、僕は比較的広い範囲で捉えている。大まかに言ってデザインの目標はどの仕事でも「良いアウトプットを生み出して、社会に良い影響を与える」ことだと思っている。その目標がうまくいかなかった時に「クライアントが良くなかったから」「ディレクターが良くなかったから」と言い訳をすることもできるかもしれないが、なるべくならそんな言い訳をしない環境を作るべきなのではないだろうか。僕自身は自分で事務所をやっているため、クライアントは多少なりとも選べるし、ディレクションも自分でやるし、もちろんアウトプットも生み出す。そして前述の目標に対して必要があるならば、条件や環境含めそれらすべてをどうにかすることがデザインなのだと思っている。つまりデザインの目標を「良いアウトプットを生み出して、社会に良い影響を与える」こととしたら、そのためにやるべきことは全てデザインだと考えているのだ。クライアントが間違っていると思えばそれを伝え、予算が足りなければお金を調達するか予算内で結果を出すための工夫をする。PCの前でAdobeのソフトと格闘している時間なんてデザインの中のごくごくごくごく一部なのである。自分も若いときはPCの前で唸っているばかりで、うまくいかないときに周りのせいにしていたけどそれは今思えば、行動が足りなくて、デザイナーとしての仕事を全うしていなかっただけだと思っている。

ちなみに、ちょっと話はそれるが「良いアウトプットを生み出して、社会に良い影響を与える」の中の「アウトプットを生み出す」かどうかがデザインと言えるかのポイントだと、僕は考えている。何かしら目に見えるアウトプットを生み出さないのであれば、僕はデザインとは別の言い方で表現するようにしている。世の中ではコンセプトを作るだけでも、ルールを作ることもデザインと言う人もいるが、僕個人的には何かしら目に見えるものを生み出して初めてデザインだと捉えているのだと、このテキストを書きながら気がづいた。もちろんその背景に「社会に良い影響を与える」を目指していることは大前提である。また、デザインの範囲を拡張していく人たちを否定するわけでもなく、自分自身は「アウトプットを生み出す」までをデザインの範囲と個人的に思っているだけだ。

冒頭に書いた通り、とりとめないけれど、まあそんなことを考えています。

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